2014/04/04

ホラーを見る『ジョジョの奇妙な冒険』

 題目『ジョジョの奇妙な冒険』
第三部アニメの放送記念で投稿。

ジョジョの奇妙な冒険(以降ジョジョと呼ぶ)はどういう漫画か? ある人は「ジャンプバトル漫画!」という。ある人は「能力バトルモノ!」という。中には「芸術品」だという人もいます。なら私はこう答えましょう「ホラー作品」……と。


ジョジョ単行本の表紙(1巻・23巻・80巻)


ジョジョの作者である荒木飛呂彦(あらきひろひこ)がホラー好きであることを、ファンならある程度はご存じでしょう。彼は単行本の前書きなどでホラー映画や恐怖体験にまつわる話を、よく話しています。さらに『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』という本まで出しています。残念ながら私はこの本を手に入れていません。ここに記す話もそれを前提にして読んでください。いつか読みたいですね。

作者がホラー好きである以上、その趣向は作品にも反映されていきます。そもそもジョジョ第一部は当初ロマンホラーという副題を添えられていました。実際に中身も、吸血鬼やゾンビが出てくる、いかにもホラーな要素を含んでいます。しかし、ホラーというのは吸血鬼やゾンビといった、見た目だけで成り立つものではありません。ホラーの目的はなんといっても「人を怖がらせる」ことです。ジョジョにもその目的を達成する要素が見受けられます。

知らない人のために記しますが、ジョジョはストーリーが大まかに区切られており、一つ一つを第○部と称する向きがあります。現在は第八部まで進行中。それを踏まえて、例としてまずは第四部の虹村形兆(にじむらけいちょう)戦を挙げます。

これは廃墟屋敷に虹村兄弟が潜んでいて、主人公はすったもんだあって屋敷に突入しなければいけなくなる話です。廃墟屋敷は薄汚く、窓がふさがれ明かりがないので真っ暗で、これだけで雰囲気という面ではバッチリですね。「何かいるんだろ……? 何か出てくるんだろ……?」と不安を煽ってきます。

暗闇で主人公の身に起きることと言えば、当然ながら何らかの襲撃です。わけあって虹村形兆の弟である虹村億泰(にじむらおくやす)が襲撃を受けてしまいます。針でつつかれたような小さな無数の傷が、突然に身に降りかかります。針でつつかれたような小さな無数の傷、いったいどういう武器で攻撃されたのか、ちょっと想像がつかない。ましてやそんなものを使ってくる存在なんて見当もつかない。

正体不明の存在というのは、こちらが何をしても悪い結果がかえってきそうで、非常に恐ろしいですね。例えばあなたが夜道を歩いていて、人間とは思えない黒い影に出会ったとします。近づいたら襲われそうだし、逃げたら追いかけてくるかもしれない、だからといってじっと待っているだけでも不安です。こうした正体不明の恐怖は、さきほど記した、廃墟の真っ暗な雰囲気も該当します。暗闇はいつだって正体不明のものです。

虹村形兆戦に限らず、正体不明の恐怖はジョジョでは頻繁に出てきます。私が思うに、 荒木飛呂彦は正体不明の恐怖を描く力が抜きんでています。分かりやすくいうなら「いったい何が起きているんだ!」という感覚を描くのが、です。もっと例を見ていきましょう。

第一部でディオが吸血鬼になったばかりの瞬間、警官たちが彼を撃ち殺して窓の外へ吹き飛ばします。めでたしめでたしと思いきや、窓の隣にいた警官は突然の死に見舞われ、死んだはずのディオが現れます。このときは、ディオの存在や吸血鬼のことが紙面であらかじめ分かっています。そのぶん正体不明感は薄めですが「いったい何が起きているんだ!」という不透明さは確実に表れています。それに、安全だと思っていたら違った、なんてホラー演出の基本もしっかり押さえられているし。

第三部のポルナレフとDIOの、階段でのやりとり。ポルナレフは階段をのぼってDIOに近づこうとしますが、気がつけば階段の下に立っています。上から下へ、漫画ではたった2、3コマで表されます。この場面は、ポルナレフ自身が何をされたのか分からず、読者にも分からないようになっています。後からDIOの能力によるものと分かりますが、まさしく「いったい何が起きているんだ!」という気分にさせられる、最たるものでしょう。

正体不明の恐怖、というと、 何をしでかすか分からない人間は恐ろしいですね。映画『悪魔のいけにえ』では5人の主役のもとに怪しいヒッチハイカーが現れます。彼はライターで遊んだり、ナイフを自分の手のひらに食い込ませたり、常軌を逸した言動をみせます。みるからにヤバそう。そしてそれは、後の凄惨な展開を予想させるものでもあります。

ジョジョにおいて何をしでかすか分からない人間は、 常連とさえ言えます。第三部ではカブトムシなど明らかに食べられないものを食いちぎる奴がいて、第四部では犬の鼻を噛みちぎる奴がいます。第五部なんて、主人公の口の中に千切れた指をつっこみ、こぶしの中に目玉を仕込むような狂気的な奴まで。その次に待っているのは、もちろん恐るべき戦いです。

 このようにホラー要素がジョジョには詰まっており、連続です、マシンガンのように撃ち込んできます。全てを羅列することは、漫画の内容をすべて広げるようなものです。しかし何がいちばん素晴らしいかというと、荒木飛呂彦はそれらホラー要素を利用しつつ、バトルを盛り上げる緊張感に完璧に昇華させていることです。恐怖=緊張。

以上です。
私がジョジョをホラー漫画だと言う理由が分かってくれたでしょうか。 荒木飛呂彦は潜在的には、優れたホラーメイカーと言えます。私は他のホラー・サスペンス・スプラッタ映画を見るたびに、彼を思い出します。理由は簡単、彼の漫画にもホラー・サスペンス・スプラッタの要素が強く染み込んでいるから。

荒木飛呂彦の本気で描いたホラーを見てみたいですね。……実はあるんです。彼の短編集『死刑執行中脱獄進行中』に収録された『岸辺露伴は動かない ~エピソード16:懺悔室~』というのが、濃厚なホラーでした。私がこれを読んだ感想としては、正直なところ、つまらなかった。しかし荒木飛呂彦のホラー好きを再確認できる作品として、記憶に残っています。

死刑執行中脱獄進行中の表紙

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