2014/06/18

映画をみる『パシフィック・リム』

 原題"Pacific Rim"
 邦題『パシフィック・リム』
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劇場ポスター




この映画、ポスターや円盤のパッケージに惚れ、たったそれだけで観るのを決意した人は多いはず。物々しいロボットが映り込んでいるんですからね。肝心の中身は、巨大ロボットvs巨大怪獣。ただのお飾りではありません。完全に主役です。ハリウッド映画でこれは非常に珍しい。

私はいちど劇場で視聴しました。今回はTVサイズのものを視聴したので、それをもとに記していきます。

始まりは、舞台の説明から入ります。怪獣が太平洋の底から現れるようになって、各国が怪獣に対抗するため巨大ロボット「イェーガー」を作り、けどなんかパイロットは二人一組が条件で……みたいな話が流れて、やっと本題へ。

主人公はローリー・ベケットという男で、兄ヤンシーと共にイェーガーのパイロット。兄弟が乗るのは「ジプシー・デンジャー」。アメリカ人に言わせると「ストリッパーのような名前」らしいですが、私にはピンときません。

パイロットの動きがそのままロボットの動きになる、これがイェーガーの操縦。兄弟でダイエットマシーンみたいな機械に繋がり、同じ動きをするんですよ。シュール。私はこの姿をトレイラーで見たとき苦笑いしました。しかし本編を観ていれば慣れました。

ヘンテコなポーズ・動きが盛りだくさん

兄弟はまたも現れた怪獣退治にジプシーを駆って太平洋の海原へ。そこで怪獣と戦って無事に倒したと思いきや、生きていた怪獣の不意打ちでジプシー破損、コクピットが破れて兄ヤンシーが飛んでいきます。

ベケットは一人になりながらも何とかジプシーを操作して、怪獣を倒します。その疲れきった足でどこに行くかと思えば、雪国の海岸へ。雪原に膝を折るジプシーの構図はカッコいいですね。

映画が始まって早々に主人公が敗北ですよ。しかもこれに続いて各国のイェーガーが次々と破壊されていきます。そんなシーンを背景に時が進み、イェーガー計画の廃止がスタッカー・ペントコスト司令官に通達されるシーンに飛びます。

そう、舞台は絶望的です。たび重なる怪獣の襲撃に、人類はかなり追いつめられているわけです。ロボット大活躍を期待して見初めたなら、ちょっと意表を突かれることでしょう。とはいえこの絶望感は、映画全体におけるスパイスになります。

ところで、イェーガーはTVだと小さな画面ならではの面白さがありますね。劇場では目が飛び出るような大迫力でした。TVでは迫力こそありませんが、イェーガーや怪獣の作り物ぽさが増し、特撮を見ている気分になります。TVで見るのもアリ。

こうして人類が追いつめられていた間、ベケットは何をしていたかというと、世界各地を転々としながら怪獣対策の壁作りに参加していました。しかしあるとき、ペンコトコストがやってきて、もう一度パイロットをやってほしいと言う。そのときのセリフは

「どこで死にたい。ここか? イェーガーの中か?」

ベケットは再びパイロットになり、非合法なイェーガー収容基地のある香港に向かいます。そこにはかつて破壊されたジプシーが修復されて収容されていました。さらに新たな出会いが訪れます。日本人の森マコ、切りそろえられたパッツン黒髪で、先っぽだけなぜか青く染めている。

この森マコ、雰囲気がいかにも日本アニメ的なんですよ。恐らく狙ってそうしたのでしょう。またこれ、吹き替え版だと声優が林原めぐみで、見ていると新世紀エヴァンゲリオンの綾波レイにしか見えない。

森マコ(俳優:菊地凛子)

綾波レイ

森マコは見た目や設定、演技でさえ日本アニメ的。森マコがうつるシーンはどれもこれも海外映画と思えない空気が漂います。そしてその空気、我々は少なからず馴染みがある。そのせいで見ていて恥ずかしい感じがしないこともないですね。

森マコ、というか俳優菊地凛子の英語、本場だと非常に聞き取りづらいそうですね。一方で他の俳優は森マコに話しかける際、演出上たまにカタコトの日本語を話します。これが聞いていてこそばゆくなってくる……もしかして菊地凛子の演技を見ている本場の人たちは、私と同じような気持ちを味わっているんでしょうか。

ともかく、森マコはそういうキャラクターです。森マコを許せるか否か、これが今作を受け入れられるか否か、境界線の一つと言ってよいでしょう。

しばらくは森マコが中心。ベケットの新しいパートナーは誰がよいかという話に、森マコの可能性が挙がる。しかし彼女はイェーガーに乗るにはふさわしくない心の傷を抱えているらしい。どうする? どうなっちゃう!? そんな話が何十分か続きます。

他には二人の科学者のコントが見られますね。ニュートン・ガイズラーとハーマン・ゴットリーブ。オーバーな演技は素直に笑えてきます。重たい空気の今作で清涼剤とも言えるでしょう。

二人の役割は清涼剤だけ? いいえ、怪獣にまつわる大事な話もします。つまり解説役。解説役はうざったくなりがちですが、コントも務めているので見ていて楽しい。

右:ニュートン・ガイズラー(俳優:Charlie Day)
左:ハーマン・ゴットリーブ(俳優:Burn Hugh Winchester Gorman)

二人の中でガイズラーは怪獣オタクなんですが、怪獣のより細かいことを探るため、怪獣の脳にドリフトを試みようとします。ドリフトは本来ならイェーガーを操作するためパイロットの脳を操作系と接続する技術……だけどガイズラー君が装置をいじれば他生物の脳にも入りこめちゃいます。

怪獣の脳をドリフトして読みとれたことは、実は彼らが異世界生物の作りだした兵器であることでした。なぜ怪獣をこちらの世界によこしてくるのかというと、もちろん侵略のため。ではなぜ侵略をはじめたのか?

「地球は環境破壊が進んだことで、異世界生物にも住める環境になった。だから襲撃を始めた」です。さりげない環境破壊への批判が込められていますね。申し訳程度の環境破壊への批判は、怪獣映画ではお約束。

イェーガーの戦いが本格的に始まるのは、だいたい1時間目あたりから。上映時間が132分なので、前半は森マコや科学者の話ですね。で、この構成、ロボット目当ての人にとっては少しダレる。

といいつつ、悪くない構成なんです。つまり前半1時間は説明パートなんですね。映画の大筋や大雑把な疑問点などは、前半でほとんど説明が終わります。後の1時間をたっぷりロボット怪獣プロレスに使うため、こういう形をとっている。

さあ、戦いだ!

今まで格納庫で突っ立っていただけのイェーガーがようやく動き出します。まずはクリムゾン・タイフーン、チェルノ・アルファ、ストライカー・エウレカが出撃。が、エウレカ以外は数分で倒されてしまいます。

おいおい! そりゃないよ! いやほんと、タイフーンとアルファは信じられないかませ犬でしたね。1時間も待たされてコレですよ。というわけで、結局きちんとした戦いを見せてくれるのはエウレカとジプシーだけになります。

余談。アルファのパイロットが着るパイロットスーツですが、ヘルメットのデザインが何かに似ていますね。緑色で、レンズが複数……そう、装甲騎兵ボトムズに出てくるスコープドッグではありませんか。

 チェルノ・アルファのパイロットスーツ

スコープドッグ頭部 偶然だが構図も似ている

今作監督のギレルモ・デル・トロは日本の特撮・アニメ・マンガの大ファンだそうですが、まさかボトムズまで知っているのでしょうか。画像を並べればますますソックリです。どこかに詳しい話があれば……

二体のイェーガーが瞬殺されたのには理由があります。ここでは初めて怪獣が2体同時に襲撃してきました、その2体からの攻撃をさばききれなかったんですね。そして1体は香港の都市にむかい、もう1体はエウレカと戦うことに。

ここでその1体は背中の器官を用いて電磁波を放ちます。このせいでエウレカや香港都市のデジタルな機械はストップしてしまいます。このままなぶり殺されてしまうのか! そんな瀬戸際に、ジプシーがついに動きだします。

ジプシーは原子力というアナログな力で活動していたので、電磁波の影響を受けることがなかったそうです。このストーリー、どこかで見たことあるような……今川版ジャイアントロボにもこんな展開がありましたね。

しかしまさか今川版ジャイアントロボが元ネタとは思えません。「デジタル機器が使えない状況でアナログ機器が活躍」する話はありがちですしね。しかし、やはり、ギレルモ監督に聞いてみないと真実は分かりません。

当分はジプシーの大立ち回りが画面を埋め尽くします。これは言うまでもなく最高にカッコいい。夜中の戦いなので、ジプシーは常に頭や肩部にライトを照らしています。また周囲をヘリが飛び回ってもいます。

ライトやヘリなどの小物が、ジプシーのスケールを一段上げている。特にライト、私はなぜか好みです。ビルの窓から明かりが漏れている光景を見るような巨大さが感じられます。加えて、人間が乗って動かしているから、ライトがないと周りが見えないのは当然。その些細だけど当然な部分を解決してもいます。

他のロボットモノと見比べてライトの描写は珍しい。恐らくライトがないとダメだと気付いている人はいるんでしょうが、ほとんどが省略されている。ただ今作は省略されていない。見栄えがいいし、スケールへの説得力も出てくるからでしょうか。

ライトが輝くジプシー・デンジャー

ここでジプシーに乗っているのはベケットと森マコですが、森マコは滅多に喋りません。その上ベケットばかり戦況について口にするものだから、余計に沈黙が目についてきます。パイロットが二人いるから画面にも二人映さないといけない。けど実際はベケットだけに焦点を当てていると考えるべきなのでしょうね。ちょっと違和感。

実はここら辺で、私が一番気になっている部分が出てくる。問題は映画ではなく、吹き替えなんですが。ジプシーが怪獣と戦う際に一つの武装を見せてくれるんです。名をエルボーロケット。吹き替えだとロケットパンチに変更されます。

……マジか? マジで言ってのか? ロケットパンチだあ?

ふざけんなよ。ロケットパンチっていうのはロボットの腕がブースト吹かしながら弾丸の如く突っ込んでいく様を言うんだよ! ジプシーのエルボーロケットは、肘に仕込んだ推進装置を吹かして殴る攻撃だ。どうヒイキ目に見てもぜんぜん違う。

もしジプシーのエルボーロケットが腕の飛ぶ攻撃だったら、ロケットパンチの吹き替えも許せた。けどぜんぜん違うから何一つ許すことができない。攻撃名は原文のままにしておくべきだった。それをワケ分かんないノリで台無しにしやがって!

ベケット吹き替え担当の杉田智和によると、ワーナーブラザーズのお偉いさんがノリでこの台詞に変更させたらしい。

 これはロケットパンチ
(出典:真マジンガー 衝撃!Z編 OP)

これはロケットパンチじゃない


……ええ、散々言いましたが、吹き替えに関してはロケットパンチ以外は素晴らしい。ロケットパンチにさえ目をつむれば、豪華声優陣の演技を拝めることができます。ロケットパンチさえ無視すれば、吹き替え版も今作をみる際の選択肢にはアリです。

そんなこんなで香港の戦いはジプシーの勝利で終わります。イェーガーはジプシーとエウレカの二体にまで減ってしまいましたが、めげずに作戦続行。目指すは太平洋の底、怪獣が現れる次元の割れ目「ブリーチ」に核弾頭をつっこむため、二体のイェーガーを突撃させるんです。

作戦は成功しそうか? 否、新たに3体の怪獣が出現します。さらにブリーチは怪獣以外の物質を遮断する機能があるのだと分かり、このままでは作戦が失敗してしまうかもしれない。終盤にきてさらなる絶望のドン底に突き落としてきます。

解決策はただ一つ、怪獣にしがみついてブリーチを抜ける。2vs3の変則バトルは激闘の末、ジプシーと1体の怪獣を残します。先にも記した通りジプシーは原子力で動いているので、ブリーチ破壊の任務はジプシーただ一つに任されました。

ジプシーは残った怪獣にしがみついてブリーチへ落下、しがみついたまま少々の戦いをしたあと、通り抜けることに成功します。もはや満身創痍で、パイロットの負担もひどい。森マコなんか酸素不足で気絶してしまう。ベケットは彼女を脱出装置で外に放ち、一人でジプシーの自爆を敢行します。

これは映画冒頭とのちょっとした繋がりですね。ベケットは映画冒頭で、兄を失ってなお一人でジプシーを動かしてみせました。終盤では、森マコを脱出させて一人で動かす。今作においてイェーガーを一人で動かすのは、ベケットだけです。ある意味でそれが主人公の特殊能力というか、特権というか、そんな要素を担っています。

ボロボロのジプシーは異世界に辿り着き、怪獣たちを作っていた生命体の前で自爆します。ベケットは瀬戸際で脱出を試みますが……果たして間に合うのか?

間に合いました。最後は太平洋のど真ん中、森マコと抱き合って終わりです。作戦は終了し、ヒーローとヒロインが生還、これ以上ないハッピーエンドですね。個人的にベケットが死んだほうが収まりがよかったかな? と思いつつ、まあハッピーエンドは気持ちいいのでよしとしましょう。



結論
今作はアメリカの圧倒的映画パワーが、全力でロボット怪獣プロレスを劇場化してみせた映画です。子供とオタクのためだけに作られたようなものです。ゴジラウルトラマン、その他多くの特撮やロボットモノが好きな人は、今作を観て損はしないでしょう。

ストーリーが浅い。冷静にみるとツッコミどころが多い。などの問題はあります。しかし今作は、そういった問題を気にする映画ではありません。少なくとも、気にしないほうが楽しめることは間違いありません。

今作を観るにあたる心構えはコレ

童心にかえる

字幕版も吹き替え版も、なんなら原語版も、楽しく観ましょう。

※追記※
パシフィック・リム2が公開決定 2017年4月7日の予定だそうです
動画はギレルモ監督自らによる今作関連のメッセージ。動画によるとアニメシリーズの企画も展開するとか……?

[Guillermo del Toro - Special Message about Pacific Rim [HD]]
http://www.youtube.com/watch?v=HndBiSyOrK4

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