2014/06/22

映画をみる『パリ猫ディノの夜』

 原題"Une vie de chat"
 邦題『パリ猫ディノの夜』

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劇場ポスター



フランスの長編アニメ映画。フランスアニメといえばファンタスティック・プラネットを思い出す人も多いでしょう。あれは風変りで人を選びましたが、今作は大丈夫。

まず絵柄が目につきますね。絵本のような素朴なタッチで、動きはきめ細かい。人々はおおむね人体にのっとった動きをしますが、ときおりアニメらしく大胆な動きも。それがまた何とも不思議な動き方なんですね。

絵柄はこんな感じ

冒頭、パリの街を泥棒と黒猫が駆け抜けていきます。泥棒がニコ、黒猫がディノ。ニコは暗視スコープをつけてあるビルに忍び込み、宝石を盗みます。そのとき魚の装飾がほどこされた腕輪も盗むんですが、これは後にストーリーを動かしていく腕輪なので覚えておきましょう。

場面は変わり朝、ある女の子の家。泥棒のそばにいたはずのディノが、なぜか女の子の元にやってくるんですね。あれ、ディノは泥棒の飼い猫では? とこの時点では思わせられます。

家には女の子のゾエ、家政婦のクロディーヌがおり、時間をおいて母親のジャンヌが帰ってきます。ジャンヌは夫を失くしている上に多忙で、ゾエの相手をしてあげられない。だから家族仲があまり良くないという、分かりやすい設定の家族です。

ゾエは喋りません。詳しくは分かりませんが、喋ることができなくなったようです。それは微妙な家族仲の象徴。ジャンヌが「いつかママと呼んでほしい」と語りかけることからも、分かります。

右:黒猫ディノ
左:ニコ

右:ジャンヌ
左:ゾエ

ジャンヌは会話の中でクロディーヌのことも話します。「いい家政婦よ 香水以外はね」実際、クロディーヌが仕事を終えて帰っていく際、香水の残り香がしっかりと描かれます。残り香を嗅いでディノがくしゃみをしたりも。もしかして、何かの伏線……?

夜中、ディノはゾエの家を離れてどこかへ向かいます。行き先は別の家、そこには泥棒ニコが住んでいました。これで疑問がハッキリしましたね。ディノは、昼はゾエの元、夜はニコの元を行き気している野良猫だったんです。

ニコはここで初めて喋ります。ヒゲのそり残しやだらしない服装が無作法に見えますが、喋ってみると物腰はおだやか。今夜もディノと共に泥棒家業にいそしむ様子。

軽やかに屋根から屋根を渡り、二人はある場所でしばし立ち止まります。パリの夜景を一望。右手にエッフェル塔、左手にノートルダム大聖堂の裏面が見えていますね。この絶景から、二人がパリのどこにいたのか割り出すことができるかもしれません。

その後、家々を巡っては金品を盗みながら、今夜の泥棒家業も終わりです。夜が明ける前に家にもどった二人。ニコは冒頭で手に入れた魚の腕輪をディノにあげようとしますが、ここではディノはプイとそっぽを向いてしまいます。

そっけない態度をとられたニコはこう愚痴ります「どうせ俺は独り身さ」

日は昇り朝。場面はゾエの家。ゾエとジャンヌのやり取りから、父がいない理由が分かります。ある人物に殺されたからなんですね、その人物とはギャングの親玉コスタ。実はジャンヌは警察務めで、コスタを追っていました。

警察署のシーン コスタの写真を指さすジャンヌ

ここまで見ると、今作が何だか思っていたより重ためのストーリーであることが感じられます。いったいこれからどういう展開になるのか、ちょっと緊張してきますね。

カメラは警察署に務めるジャンヌをうつしていきます。巷を騒がせている泥棒事件を部下に調査させたり、ナイロビの巨像という美術品がコスタに狙われているので対策会議を開いたり、けっこう高い地位にいるようですね。

訓練になると、ジャンヌは一人で道場?のような場所に行って太極拳らしき体操を始めます。この道場、床に敷かれているのはマットでしょうが、緑色なので畳に見えてくる。そこで太極拳だから、まるで日本+中国みたいな雰囲気。苦笑いさせられます。

太極拳は精神統一も兼ねているらしく、ジャンヌはイメージの世界へ。場面転換もなく唐突なので、きちんと見ておかないと混乱しますよ。イメージ世界ではコスタ顔のタコがジャンヌに絡みついてきます。触手のアニメーションがとても細かい。

場面は変わり、ついにコスタ本人が登場。複数の部下とともに車の中、ナイロビの巨像を絶対に盗んでやると意気込んでいます。コスタと部下のやりとりはギャグ交じり。

ニコやゾエが明るくない話を展開していたのに比べて、コスタたちはコミカル。というのも、コスタのような悪役まで重々しい話をしていたのでは、映画全編が重たくなっちゃうからですね。悪役=憎まれ役なので受け手に笑われても構わない。そこでギャグキャラも任されているわけです。

ヤッターマンドロンボー一味とか、アニメ版ポケットモンスターロケット団ですね。もちろん彼らほど底抜けにギャグキャラではありませんが、役割は同じです。悪役にはこういう使い方もあるんですねえ。

余談。コスタの車のシーンに出てくるハエが妙にかわいい。

かわいいハエ(以降は出てきません)

さて、出演者は揃いました。これらがどのように絡みあっていくのか、鍵はディノにあります。ゾエがディノを追いかけてニコの家を見つけたり、ディノが持ってきた魚の腕輪がジャンヌの目にとまったり……

ニコとディノの関係を知った女の子は、よほど衝撃だったのか、すぐには家に帰りませんでした。彼女は別の場所で、別のものを見つけてしまいます。なんという偶然か、コスタと部下が巨像を奪う計画を話しあっているところでした。

コスタに情報を届ける女性の姿。暗がりから現れた姿は、おめかしですっかり印象の変わったクロディーヌでした。彼女はスパイだった。その事実にゾエは驚いて、コスタたちに存在がバレてしまいます。

ゾエは逃げる途中でニコとディノに出会い、共に夜の街へ逃げ出していきます。コスタたちはもちろん追いかけてきます。屋根の上の追いかけっこ、ニコはまだしも、ギャングのコスタたちまで行ってみせるとは超人揃いですね。

ニコは自分を囮にコスタたちを惹きつけようとします。ゾエはディノと共に別の道から逃亡。このとき生垣を通るんですが、木枝に服が引っかかって破れてしまいます。

コスタはめざとく服の切れ端を見つけて、ゾエの行方に気付くんですね。服の切れ端を見つけたときの彼の行動は……遠慮なく切れ端の匂いを嗅いで「少女の匂いだ」なんて、変態チック極まります。

とはいえゾエは逃げおおせてみせます。ニコも同じく。二人はニコの家で落ち合うことに成功します。一件落着か、と思いきや簡単にはいかない。実は追いかけっこの最中、ジャンヌの部下が魚の腕輪をもとにディノを調べていました。そして目星をニコの家まで絞っていたんです。

ニコは待ち伏せしていたジャンヌとその部下に捕まってしまいます。ゾエと一緒にいたものだから誘拐犯扱いで、さらにニコがパトカーに押し込まれた頃合いでクロディーヌが現れるタイミングの悪さ。

クロディーヌのウソによって、誘拐犯の疑惑がますます固まる。ゾエは喋ることができないので、ニコを助けられない。ジャンヌ・部下・ニコを入れたパトカーがいってしまいます。クロディーヌはまんまとゾエを連れていくことに成功。

過ぎ去るパトカーを目の前に、ゾエはやっと発した言葉は「ママ!」。ジャンヌが言ってほしかった言葉が、ここで口にされる。しかし時すでに遅し。

パトカーの中、ニコはまたもや機転を利かして逃げだします。ジャンヌにゾエの危険を知らせてから身をくらます。ニコがいなくなったあと、ジャンヌはさすがに娘の身を案じて我が家に戻る。するとクロディーヌもゾエもおらず、事態の重さに気付きます。

一方コスタたち、クロディーヌがゾエを連れてきたのに浮かれて小さなパーティをはじめちゃいます。そのとき部下がクロディーヌの香水のキツさに耐えられず窓を開くと、香水の香りが風にのってパリの夜空へ……

香水の香りですが、クロディーヌの姿をとった妖精のような形をしています。不思議な表現ですが、絵本のような絵柄にはピッタリですね。ニコとディノの元に香りが届き、ディノが香りをたどっていきます。香水の伏線、回収。

コスタのアジトを見つけたニコは、建物を停電させると暗視スコープをつけて潜入。暗闇の中でゾエを助け出します。この暗闇シーン、黒一色の背景に人物が白線だけで描かれる、独特の演出で進みます。

パリの街に漂う香水の香り

黒い背景 白い輪郭
今作でもっとも際立ったシーン

再び追いかけっこになり、ニコとコスタ(部下はいない)はノートルダム大聖堂に辿り着きます。そこでニコは安全な場所にゾエをうつし、自身はコスタと1対1で殴り合い。ノートルダム大聖堂の屋根で殴り合い!

いかにも面白そうですね。しかし殴り合いのシーンは信じられないほど迫力に欠けます。私が今までにみた戦闘シーンの中で、ワースト1に挙げてもいいくらいです。動きは多彩で滑らかなのになあ……

ノートルダム大聖堂で殴り合い

そんなこんなでジャンヌも追いつき、コスタは追いつめられ、落下しそうになったり殴られたり、そのせいで正気を失ってしまいます。コスタは欲しがっていたナイロビの巨像の幻を見ながら、自ら飛び上がり、最後を迎えます。

この最後のシーンは攻守が二転三転するので軽妙ですね。その勢いよさを観ていると、素直に楽しくなってきます。

こんな風にして、激しい一夜は終わりました。女の子はすっかり喋ることができるようになりました。ジャンヌとニコはこの一件で通じ合うようになったようです。ジャンヌは夫を亡くした身、ニコは独りを嘆く身、うまく収まりましたね。

残ったコスタの部下も捕まり、一かけらも後腐れのないハッピーエンドです。

「ちょっと待って、ジャンヌは警察でしょ? ニコは捕まえてないの?」

はい、映画を見るかぎり捕まえていません。それどころか二人は結婚(同棲?)します。それが幕引きのシーンです。まあこれを見ると、ある意味では捕まえたと言えるのではないでしょうか?



結論
今作はかわいらしさと確かな作りが観る者を惹きこみます。前半は各人物のストーリーが群像劇のように折り重なり、中盤は黒猫ディノを通じてストーリーが絡みあい、終盤は激しい大展開。そんな場面を、素朴な絵柄がしっとりと描いていく。

伏線の配置と回収は分かりやす過ぎない、分かりづら過ぎない、気付く楽しさを届けてくれます。以上のことから、今作はほとんど隙のないアニメ映画といってよいですね。時間も70分で、サクッと観ることができるのは嬉しい。

ところで、個人的な不満を一つ。

OPとED、そしてナイロビの巨像の幻が歩くシーンで流れるBGM、勇ましすぎませんか? アメコミ原作映画で流れてもおかしくないような……今作よりもスパイダーマンが活躍しているシーンで流すとピッタリって感じですね。

こんなところで終わりましょう。
パリ猫ディノの夜』をよろしく。

[パリ猫ディノの夜 日本語公式HP]
http://www.parinekodino.com/

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