2014/04/02

オススメ『クイーンクリサリスの帰還』

 原題『My Little Pony:Friend Ship is Magic -The Return of Queen Chrysalis-』
 邦題 公式の邦題はナシ
これをあなたにオススメしたい。

今回の本にも出てくるポニーたち

MLP:FiMという米国産アニメが存在します。そもそもマイリトルポニーというのは古くからある女児向け玩具企画です。その第4世代目、通称G4と呼ばれているのがこのアニメ。米国で大ヒット中であり、他国にもバンバン輸出されており、日本でも日本語吹き替え版が放送しました。アニメはシーズン4まで進行中ですが、日本語吹き替え版はシーズン2でひとまず終了、もしかしたらシーズン3および4も翻訳してくれるかもしれません。

玩具を基にしたアニメというと、有名なのはトランスフォーマーですね。これも米国で高い人気を誇っています。FiMはそんなものだと捉えてください。日本だと、ゾイドが玩具を基にしたアニメの代表になるのかしら。

人気の出たアニメが何をしていくか? それはメディアミックスです。FiMはコミックやノベルが世に出てきました。『クイーンクリサリスの帰還』は、コミック版FiMにおける初の長編作品です。アニメが基になっているので、ストーリーもそれが前提となっています。アニメにクイーンクリサリスという悪役キャラが登場しましたが、彼女がまたもや暴れ出すという構成なわけです。

「なーんだ。じゃあアニメを見ていないと分かんないじゃん」

たしかにその通りですね。しかしご安心ください。このコミックの見どころはなんといっても絵です。会話の吹きだしをすべてすっぽかして絵だけを眺めていっても、読み手は間違いなくポニーたちと同じ大冒険を味わうことができるでしょう。というわけで、今回は眺めているだけで分かる部分を中心に話していきます。

(物語をみる『クイーンクリサリスの帰還』はこちら
Part1→http://kansomolashi.blogspot.jp/2014/05/part1.html )

 書籍の表紙

まず本を手にして(あるいは電子書籍を購入して)全体を眺めてみましょう。フルカラーだということがすぐ分かります。豪華ですね。日本の漫画は基本的にモノクロ、雑誌掲載時の扉絵などを除いてフルカラーは珍しいといえます。大してアメリカンコミックは基本的にフルカラーです。これは制作環境や事情などが理由ですが、そういう話はここでは控えておきます。どちらにしても目に楽しいことは変わりありません。まずはここで日本の漫画との違いを体験させられます。

フルカラー。特に原色に近い色が多彩にちりばめられています。主役である6匹のポニーたちもキレイに色がわかれているので、紙面中を常に鮮やかにしています。ポップでキュートな雰囲気は、自然と顔がほころびます。

絵はどうなっているでしょうか? 全体をみてみれば、画力について心配しなくていいと分かるでしょう。ポニーというキャラは造形がシンプルなので、背景や小物も合わせてシンプルにおさまっています。なのでシーンの一つ一つが見やすく理解しやすい。

ポニーたちの描写は、基となったアニメのキャラデザインの特徴をうまくとらえています。基がカワイイので、コミックの彼女たちもかわいらしい。カートゥーン独特のドギツい感じを嫌がる人は多いはずです。彼女たちにもそういうドギツい感じは……ほんの、ちょっぴり……感じられますが、忘れてしまうくらいに別の魅力を合わせ持つので問題ありません。 また、絵はアニメに準拠しているとはいえ、もちろん作者の画風が混じっており、言いようのない独特さがあります。表情の描き方をみれば特にその独特さが感じられます。

ポニーたちの表情はとてもコミカルです。何種類ものえがお、怒り顔、呆れ顔、彼女たちの心が手に取れるようではありませんか。それは表情を絵で描いているというより、絵の中のキャラが表情を変えているとさえ思わせます。顔というパーツを面白おかしく大胆に崩し、崩しつつ元のイメージを保つ技術が、お見事。

私は特に、今回の悪役でありもう1匹の主役でもあるクイーンクリサリスに惹かれます。彼女がコミック中で見せる顔は、他のどのキャラよりも多彩です。にくめない悪役。

こうした表情、すなわち演技にこだわっているところは、映像大国の米国だからこそという感じがありますね。FiMのアニメを見ている人なら、アニメでは見れないポニーの表情の数々を味わいましょう。見ていない人でも、やはりポニーの表情の数々を味わいましょう。表情探検はオススメです。

 ポニーたちの表情の例

コマ割りはどうなっているのかな? 見てみましょう。おなじみの四角い枠は当然として、斜めに切られたコマ、完全な円形コマに、あたかも建物のようにアーチを描くコマは、珍しいのではないでしょうか。さらに、もっと色々なコマが見られます。というのも、コマを表すためにある枠の種類が豊富なのです。

枠の種類は、場面によって違います。ときに、草花に覆われています。クイーンクリサリスというキャラを示す、緑色の粘液に覆われていることもあります。洞窟のシーンでは岩肌のような枠にもなり、ポニーたちが喧嘩をするシーンではガラスの割れたような複雑な枠になります。私はこの仕掛けに気付いたとき、ニヤニヤさせられました。こうした遊び心は、作者たちの笑顔さえ浮かびあがってくるようです。とはいえ、それは欠点をも生み出します。奇抜なコマ枠のせいで、一部の場面はどのコマから見ていけばいいのか迷わされてしまいます。

擬音についても話しましょう。アメリカンコミックでは擬音に、オノマトペを用いつつ、その場面を意味する単語を用いることも多いですね。単語がコマの中に踊りまわる……これは慣れないうちは奇妙な印象を受けます。しかしそんなものでも絵の一部、場面を盛り上げるために巧みに仕込まれていきます。背景の一部になっていたり、ビームの柄になっていたり。そのため、コマの中には、文字と絵の融合によって、あたかもポスターデザインのような洒落たものが見受けられることもあります。

とりあえず、こんなところですね。
ここで、あえて不満を口にしましょう。
私は陰影が大好きです。光と影の表現がとても好きで、絵をみるときもそこに注目します。この『クイーンクリサリスの帰還』というより、FiMコミック全般は、ポップでキュートな分、陰影を楽しめる部分が少ないのが残念です。「おっ!」と思わせられるシーンはありますが。

しかし、朗報。
『クイーンクリサリスの帰還』の原画担当は"Andy Price"という方です。実は彼はdeviantART(海外のイラスト投稿サイト)にアカウントを作っているようで、そこにコミックの原画やイラストを投稿しています。特に原画は、見た途端にビックリさせられました。インクや鉛筆によるモノクロ表現なため、陰影が強調されており、グッとくる迫力がありました。コミックとまったく同じ場面でも、印象はまったく変わってきます。私は陰影が好きなので、原画のほうが好みです。



最後になります。
『クイーンクリサリスの帰還』は、FiMファンにとって極上の作品ですが、そうでない人にとっても一見の価値があります。ただし、私がこれを記している段階では、日本語訳版は出版されていません。もしあなたがコミックを求めるなら、間違いなく英語で書かれたものを見ることになります。尻ごみしてはいけませんよ。英語が分からなくても、画集だとでも思って見てみましょう。暇があれば、自分で翻訳に挑戦してみましょう。

本をネット通販で手に入れることができるし、データ媒体がAppStoreなどで配信もされています。お好きなやりかたで手にしてみてください。

最後の最後になりますが、ストーリーについての感想を、別の機会に話すかもしれません。その場合は、FiMを知っていること前提で話すことになるでしょう。

物語をみる『クイーンクリサリスの帰還』はこちら
Part1→http://kansomolashi.blogspot.jp/2014/05/part1.html

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